2020年12月15日

傾聴でお墓の悩みを解決 ―終活カウンセラーの妻と二人三脚―

青森県弘前市・専求院

桜の名所として知られる青森県弘前市の弘前城。その西堀にある浄土宗専求院は永代供養墓の建立をきっかけに、「みんなが集まるお寺」を実現させた。その要となっているのは村井龍大住職(42)と終活カウンセラーの資格を持つ妻の麻矢さん(44)が二人三脚での相談活動の実践だ。
2010年に先代から後を継いだ村井住職が最初に感じたのは「寄付をお願いしないと何もできない」寺院の運営状況。同時に「子どもがいないのでお墓の将来が心配」といったお墓に関する悩みを抱える人の声が多く届いた。その解決策として永代供養墓を新たな「寺業」として計画。永代供養墓を持つお寺自体が少ない保守的な地域のなかでの試みは葛藤もあったが、「困っている人の悩みを聴くうちに行動に移さなければ」と決意。各地のセミナーに通うなかで川本商店みんてら事業部と出会い、「これから必要とされるお墓づくり」のビジョンを共有できたことも力になり、3年前に永代供養墓「ハナミズキ」が完成した。

お寺の敷居はやっぱり高い

 「お墓が決まり涙を流して喜ぶ人がいる」と村井住職。今でも年間200件ほどの相談を受けるが、意を決した様子の人を見るたびに「下げているつもりでもお寺の敷居は高い」ことに気付かされる。入りやすいお寺と知ってもらうため、寺ジャズ・寺ヨガ・お寺の終活会などの「縁会」を開く。
 もうひとつ、お寺を知ってもらうための大きな存在が終活カウンセラーの麻矢さんの活動。4年前に資格を取ってから、地元紙「東奥日報」に連載を持ち、市や葬儀社主催の終活セミナーで講師を務め、お寺の活動や人生の終焉を考えるきっかけ作りをしている。在家出身だが「信仰心があった」と麻矢さん。高校生の時に父と死別。「父が何か遺していないかと母は一生懸命探していたけれど、何も見つからなかった」。ある時、偶然見た母の日記には悲痛な思いが綴られ、続きのページはめくれなかった。思いを遺すことの大切さを痛感した麻矢さんは高校生の時からエンディングノートを書いている。「高校生なのでお金のことではなく、大切にしていたものを誰に渡したい、といった気持ちの部分を書いていました」。ノートは人生の転機のたびに書きなおした。「何を遺したいかを考えることは、今何をしたいのか、何をするのかを考えることにつながる」。死を考え、生を考える。「これからをより良く生きるため」の終活をお寺の内外で発信している。

看取り、葬儀にグリーフケアも

 ハナミズキを中央に配置した専求院の永代供養墓。合祀墓と個別区画は順調に販売され、昨年にはペットと入れるお墓や女性専用墓などの新区画も出来た。新たな仏縁を生み出す要因は、傾聴を重視した相談活動にある。「耳が二つに口が一つ。より多く聴きなさいということですよね」と村井住職は話す。「女性の方が話しやすいし、その役割は大きい。お寺への入口を作ってくれている」と麻矢さんへの感謝を口にすると、「でもうちは住職に相談したいという方が多いんですよ。私じゃダメなの?って」と麻矢さんは笑いつつ、敬意を込める。
運営が安定したことでお寺の可能性も広がる。「葬儀部門を充実させたい」と村井住職が言えば、「私は看取りやグリーフケアのNPO法人を」と麻矢さん。地域にある課題に目を向けながら、新たな寺業も思い描いている。

オリジナルエンディングノート

 専求院はオリジナルのエンディングノートを作っている(写真)。ページ数を少なくし、字を大きくしたシンプルな作りで、終活セミナーなどで活用されている。  一人ではなかなか書けないエンディングノート。セミナーでは延命治療が必要かどうかといった医療行為の欄や子どもたちへのメッセージなど書きやすい箇所から記入するという。麻矢さんは注意点もあげる。「エンディングノートは自分の気持ちを一方的に伝えるものなので、気持ちを押し付けるようなところがある」。そのため受け取る人を考えながら書くようアドバイスを送る。「気持ちを伝えることはとても良いことけれど自己満足だけではいけない。遺された人を思う『気遣いノート』にもなるように。そのさじ加減は凄く難しいんです」と試行錯誤をしている。

関連記事