2020年12月15日

在家から無住寺院の住職へ ―丁寧な供養を支える「法事録」―

埼玉県八潮市・立正寺

埼玉県八潮市の住宅街に建つ小さなお寺、浄土宗立正寺。平成20年の本堂再建を契機に鈴木俊也住職(43)が入寺、〝みんなが安心して あつまれる みんなのおてら〟をコンセプトにした。お寺の敷居を低くし、日々の供養とコミュニケーションを大切にする。そんな当たり前の実践が「みんなのおてら」をカタチづくっている。
鈴木住職は在家出身。結婚相手が立正寺を兼務するお寺の住職の娘だった。立正寺は長い間、住職が常住せず、法事以外は檀家が集まってお茶飲み話をするような場だった。そんな同寺で本堂の再建話が浮上したのが平成18年。「せっかくだから、誰か住職に住んでほしい」との声があり、義父から「やってみるか?」と声がかかった。当時サラリーマンだった鈴木住職は休みの日にお寺の手伝いに行き「みな楽しそうにお参りに来て、喜んでお布施を出している。この集まりは一体なんだろう」と興味を抱いていた。「やらせて下さい」と答え、僧侶の道へ。平成20年12月に加行を終え、同年3月に再建工事を終えていた真新しい本堂からその一歩を踏み出した。

“女性”の視点でお墓づくり

 「お寺は入りづらい」「聴きたいことが聴けない」。檀家や周囲の声に耳を傾け、「敷居を低くのは大前提」と決心。「住職になる前からの思いでもありますが、ご縁を持った人が幸せになってほしい」という「志」を寺院の基盤に置いた。
平成25年には永代供養墓「共生(ともいき)」を開設。希望者には墓誌替わりの「小仏さん」を安置する。こうしたアイデアを含め「共生」は㈲川本商店がデザイン。周囲の墓石と並んでも違和感がなく、女性のお参りを意識して、建物高を低くした。「当初はカッコいいものを作りたいというようなことを考えていたので、女性への視点というのは目からウロコ。実際に威圧感のないお墓になりました」
永代供養墓の販売は順調だが、その背景には「しっかりとした供養」を継続するためのいくつもの心がけがある。「お寺はサービス業。こう言うと怒る方もいるかもしれませんが、そのサービスである供養は信頼関係が大切です。お墓を広げれば良いのではなく、一貫性をもって自分がやり通すせる範囲でなければ疎かになってしまう」と「一人のキャパシティーを超えない」ことを基本とする。

話し合える存在になる

 丁寧な法事を支えるツールもある。それが「法事録」。僧侶になったばかりの頃、葬儀や法事について回っていた時に気づいたことがあった。「あっ!住職がまた同じ法話をしている。聞いている側はどう感じるだろう」。そんな思いから「法事録」を作った。A4用紙一枚に、日付や天気、参加者数から、家族の様子(例えば、長男は受験で来られなかった、親戚が入院している等々)、どんな法話をしたかを記録。5分で記入できるシンプルな作だが、読み返すことで、次への準備もできる。「人間の記憶は曖昧です。私はそもそも人前で話すのが苦手。少ない話のなかで同じ法話は致命的ですから」
立正寺に関わる人全てを対象にした「縁が輪(えんがわ)」の会がある。写経会と日帰りバス旅行がメイン行事で、檀家も共生のメンバーも参加する。檀家のなかには「自分が最後。納骨して数年の供養の後に『墓じまい』をして『共生』に入れてほしい」と望む人もいる。この他にも、経済的な理由や様々な要因で従来通りの葬儀や納骨が出来ない人に出会う。だからこそ「しっかりと話し合える存在」となり「供養したい気持ち」を受け止めたいと思う。
「仏さまを中心にしたお寺コミュニティで、真心を込めて手を合わせるのが住職の仕事です。善い行いをしていくことで、縁ある人の不安が除かれて幸せになっていく。ありがたいことにそれがお寺の安定した運営にもつながっている」とやりがいを感じる。縁が輪の会員が紹介者を連れて来てくれることも増えた。「安心してあつまれるおてら」には「安心して紹介できる住職」の存在が欠かせない。

関連記事